電磁波に撃たれて眠りたい!

今日も電磁波浴びまくりのIT業界で働く@mamohacyがガジェット/クラウド/IT業界を語ってくブログ

"組織の重力"から解き放たれるためのAnti gravity戦略

このnoteは「大企業スキル勉強会 Advent Calendar 2025」のDay10です。

adventar.org

今回は昨年のアドベントカレンダーでお話した「大企業における変革の実践と失敗から学んだこと」のなかから、「組織の力学による誘引」について深堀りしてみたいと思います。 4000文字超の長文となりましたが、どうぞお付き合い下さい。

blog.mamohacy.com


大企業の中で、DXやクラウド、AIの推進など、新しい考え方や働き方を推進していこうとうすると、
「なぜか挑戦が途中で潰れる」「続かない」「評価されない」
そんな経験をしたことがある方は少なくないと思います。

これは個人のやる気不足でも、上司の視野や了見が狭いわけでもありません。
もっと“構造的”な力が働いています。

私はこれを 「組織の重力(グラビティ)」 と呼んでいます。

企業に属する限り、社員の評価軸は、その人が所属する“部署のミッション”に必ず引き寄せられます。 どれだけ先鋭的で会社に有益な取り組みだったとしても、所属部署のミッションと合致しなければ、評価も支援も得られません。 これは悪意でも怠慢でもなく、組織の恒常性(Homeostasis) としてごく自然に働く力です。

この記事では、この“重力”の正体を、組織論の3つの理論 で読み解き、私自身の成功例や失敗例と紐づけながら、最後に「どうやって重力から解放させればよいか?」まで踏み込んで解説します。

■ 重力の正体を読み解く三つの理論

1. 組織慣性(Organizational Inertia)

大きな組織ほど「変わらないこと」に最適化されています。これは悪ではなく“生存戦略”です。

note.com

  • 既存の業務プロセスを守る
  • 失敗しにくい意思決定を選ぶ
  • 前例踏襲が行われる

これらはすべて、「組織が壊れないための自然現象」です。

しかしこの慣性こそが、新しい挑戦を吸い込み、黙殺する“重力”の正体の一つです。

あなたが先鋭的なアイデアを持ち込んでも、既存の運用のほうが“安定的”に見えるため、自然にそちらへと引き寄せられていきます。

2. 組織免疫(Immunity to Change)

ハーバード大学のKeganらが提唱した理論で、 「組織には“変わらないこと”を守る免疫システムが存在する」 という考え方です。

表向きは「変わりたい」「DXをやりたい」と言いながら、無意識の深層では

  • 失敗のリスク
  • 責任の所在
  • 権限の変質
  • 既存文化の混乱

を恐れ、新しい取り組みを拒絶する動きが生まれます。

これは敵対的な抵抗ではなく、“良かれと思って”止められることすらあります。

これもまた、挑戦者を所属組織のミッションへと引き戻す重力です。

3. イノベーションのジレンマ

クレイトン・クリステンセンの名著が示したのは、"成功した組織ほど新しい挑戦を潰す”**という残酷な構造です。

理由は単純で、 既存事業を守る意思決定の方が短期的に合理的だから。

結果として、

  • 既存事業に資源が優先的に配分される
  • 新規活動の成果が短期利益に結びつかない
  • 「今のままで良い」という圧力が働く

これらがすべて、挑戦者にのしかかる 強い重力 となります。

■ 私の経験:重力が働いた瞬間を振り返る

ここからは、私自身の3つの経験を通して、“重力が働くとどうなるか/働かないとどうなるか” を具体的に示します。

注:ここに書いた内容はまぎれもなく私の実体験ですが、実組織名などが明らかにならないように一部偽名や偽装を使っている点、ご理解ください。

経験1[◎:Anti Gravity] :内製アジャイル開発を推進する「出島組織」にいたとき

この出島組織は、社内にアジャイル文化を根づかせるための実験場として作られました。既存の重厚長大・ミス厳禁の文化から距離を置くため、勤務場所も雰囲気も含め意図的に隔離された組織でした。

  • 服務規程は独自
  • 優秀なエンジニアが働きやすい環境を整備
  • 「挑戦するのが当たり前」という文化を前面に出す

この環境では、 反対勢力の影響を受けずに新しい挑戦を即座に始められる という“重力のなさ”を全員が肌で感じていました。

結果として、とてもオープンでフラットな組織ができあがり、自由闊達な意見が飛び交い、アジャイル文化を広げる強力な原動力となりました。

経験2[✗:Gravity] :名称の類似性だけで部署異動させられたとき

これは昨年のAdventCalendarでも記載した内容です。

当時私が率いていたパブリッククラウドのプロジェクトが一次解散となり、プロジェクトごと別の部署に異動となりました。 このときの異動の表向きの理由は 「クラウド系をまとめて集約を図り、人的リソースの融通を効かせる」というものでした。

しかし実際は――

  • 部署のミッションは“プライベートクラウドの開発”
  • 私がやっていた“パブリッククラウドの活用推進”とはそもそも事業ドメインが違う
  • 評価軸も、価値観も、ゴールも、何もかも次元が違うレベルでまったく異なっていた

という状況でした。

結果として、

  • 共用されるはずの人的リソースは逆に主たる部署の稼働に吸い込まれる
  • 新しい挑戦はすべて“ミッション外”として停止あるいは縮小
  • 稼働が取れず、挑戦する余地はゼロ
  • プロジェクトの存在だけは残っているが、実態は死んだも同然

まさに 重力に飲み込まれた状態 でした。

経験3[◎:Anti Gravity]:本部長直轄で全社横断型のコミュニティを立ち上げたとき

当時所属していた部署はプラットフォームを開発するソフトウェア開発組織でした。 新しい知見を外部から取り入れるのはエンジニア組織として必然であると同時に、社内で開発を円滑に進めるには他部署の協力が不可欠で、ライン長依存の組織間調整ではどうしても“縦割りの壁”が邪魔でした。

そこで私は、

「全社横断型のコミュニティ文化をつくりたい」

と本部長に直訴し、直轄として活動を開始しました。直轄になったことで

  • 意思決定が高速化
  • 壁を越えた横断活動が容易に
  • 上層部の“お墨付き”効果で賛同者が増加
  • 活動の失敗リスクを事前に共有できる

という、明らかな“重力からの解放”が起きました。

部署ミッション単体では判断しにくかったこういった創造的な活動も、直轄になった瞬間に正当性を持ち、協力者の動きやすさが格段に増したのです。

■ 重力から“解放”されるには?

さて、いよいよ本記事のメインに入っていきます。

上記の例に挙げた「出島組織」や「直轄配置」は、重力から挑戦者を守るための外科的アプローチといえます。 この方法はトップダウンの意思決定によってドライブされるのでスピードも早く、庇護も強固です。

しかし、これらはある程度の偶然性を孕んでおり、立場上成立が難しい場合も多いと思います。 もちろん、ご自身が人事権を行使できる立場にあれば、挑戦的な活動として取り組むべき施策です。

一方で、私の経験から言えば、これらトップダウン的アプローチだけでは、組織の重力から解放できるだけのチカラ、、、"反重力"を持つことはできません。 なぜなら、この方法はある意味で目の届く安全に囲われた柵の中でしか、影響力を及ぼすことができないからです。

新しい取り組みを組織全体にインストールし、組織の重力が効かない状況にするいんは、その活動が"文化"となり、もはや空気のような、当たり前にそこにある状態にまで変異させる必要があります。 そのためには、行動経済学 × 組織論 × インターナルマーケティング を組み合わせた“戦略的で継続的な変革アプローチ”が必要です。

私はこれを

戦略的組織変革(Strategic Change Crafting)

と呼ぶことにしました。

実は、今回この記事を書くにあたりかなり長い時間ChatGPTと壁打ちを続けてきました。過去何度か公の場で部分的には言及してきた内容ですが、私が経験的に積み上げてきたこれらの手法には、どうやらいくつかの学術的な裏付けができそうだということがわかりました。

ここからこの戦略的組織変革を用いて、新しい取り組みを企業の文化として定着し、空気に近い存在に持って行く準備を整わせるまでの手順を、順を追ってご紹介します。

◆ 1. コミュニティをつくり、実績の“点”をつくる

社内にコミュニティを作り、仲間を集める。
これにより、弱いつながり(Weak Ties)が生まれ、
新しい思想が伝播しやすくなります。

これは社会ネットワーク論の基本であり、
一人では重力に潰される挑戦が、コミュニティでは生き延びる理由です。

jinjibu.jp

◆ 2. 活動を自身の“副ミッション”として組み込む

所属組織から完全に独立できない以上、
まずは小さく“公認”を得る必要があります。

とはいえ、いきなり組織のミッションから大きく外れた内容を
自分の主ミッションに据えることは事実上不可能です。
主ミッションで成果をきちんとコミットし、成果を残すことを条件に、
自分が推したい活動を副ミッションとして設定することを認めてもらいます

心理的安全性と活動の正当性の両方を確保することで、
挑戦が“異物”にならず、組織免疫の拒絶反応を弱める効果があります。

◆ 3. 情報を「社内外」へ継続的に発信して"線"を作る

社内に実績を示し、
社外に認知を広げ、
レピュテーション(評判資本)を積み上げる。

これは行動経済学の 社会的証明(Social Proof) にあたり、
「外で評価されているものを内部は無視できない」という
強力な心理効果を生みます。

jinjibu.jp

◆ 4. “潮目”が変わる瞬間まで積み上げ続ける

あなたが正しいと信じている活動が、世の中の多くの人にとって本当に正であった場合、
どこかのあるタイミングで、業界全体の潮流が変わります。

その瞬間に――
社内外で積み上げた“点”が、これまた作った“線”を通してつながり、そして“面”になる。

こうなると、
組織の重力そのものが、新しい文化の側に傾き始める
という逆転現象が起こります。

私はこの瞬間を何度も見てきました。

◆ 5. そして「社内の第一人者」へ

潮目が変わった瞬間、
社内で「そのテーマを最も理解している人物」は誰か?
となったとき、
内部実績 × 外部実績 を持つ人間が必ず選ばれます。

例え「物好技きのお遊び」と言われ続けても
組織の重力を掻い潜り、密かに、そして
着実に積み上げてきた実績が
花開く瞬間です。

第一人者として選ばれたあなたの活動を、
もう誰も軽んじることはできません。

ここで初めて、本当の意味で重力から解放され、
これまで一緒に走ってきた仲間とともに
推してきた新しい取り組みが
文化として根付いていく瞬間が、始まります。

■ まとめ

組織には重力があります。それは悪ではなく、恒常性の表れです。 企業の大小によらず、人が組織として集まって経済活動の営みが始まると必ず起きてしまう生理現象ともいえます。

しかし、だからこそ、
挑戦は、重力圏から外れた場所で産まれ、
決裁権のある誰かの庇護によって成長し、
戦略的な積み上げによって花開く
というプロセスが必要になります。

もちろん情熱を持つことはとても大切です。
しかし、ノリや勢い、目先の成果追求だけでは、
あなたの活動は組織の空気になることは絶対にありません。

必要なのは、
組織を俯瞰的に見る深い洞察と、時間と人を味方につける綿密な戦略です。

あなたがもし今、
組織の中で何か新しい挑戦をしようとしているなら、
この“組織の重力”という構造を理解し、
ぜひ外側から・上側から・戦略からの三方向で
変革を設計してみてください。

その挑戦は、必ず誰かの未来を拓くはずです。