電磁波に撃たれて眠りたい!

今日も電磁波浴びまくりのIT業界で働く@mamohacyがガジェット/クラウド/IT業界を語ってくブログ

「電子書籍」vs「紙の本」 読書体験の違いによって生まれる3つの根本的要素について

下記の記事を読んで思うところがあったのでエントリ。 ↓電子書籍に移行することで失われる読書体験の中身が少し判明 - GIGAZINE

 

 

この記事の中で、本の中の物語の時間と経時性に関する質問において電子書籍のほうが圧倒的に低い正答率であることが記されていますが、この要因については個人的に明らかであると思っている点があります。

それは、「読み終わった量に対する物理的な認識の有無」です。

 

紙に触れる指から入ってくる情報こそが読書体験

紙の場合、その本の厚みと印刷されている文字の大きさや1ページ内の文字量により、まず漠然とした「全体量」の把握が行われます。そして一定量読み進めたところで、いまどのくらいまで進んでいて(位置)、それをどれくらいで読み終えたのか(速度)、そしてこのペースならあとどのくらいで読み終えるのか(読了予測)を感覚的に把握できます。本人が意識するかどうかによらず、人は手で持って厚みを感じている時点で勝手にこれらの活動が脳によって行われます。

ところが電子書籍の場合、辞書だろうが新書だろうが京極夏彦さんの小説だろうが、全て同じ厚み(=電子書籍デバイスの厚み)でしかなく、たとえ読み進めても厚みは変わりません。読み終えた部分と残っている部分を指の触覚で感じることができないので、全体に対する位置の把握ができません。位置の把握ができないということは速度の把握もできないわけで、そうなるといつ読み終われそうかの予測も立たないわけです。もちろん全体ページ数や現在のページ数は電子書籍でも表示は可能ですが、そんなものをいちいち確認しながら読むわけはないですし、紙の場合でも全体ページ数と現在ページを都度意識して読んでいる人などいないはずです。

 

読書体験の違いからくる「読みごたえ」の差

この「位置」「速度」「読了予測」の3つを読者が意識せずに行えるのが紙ベースの書籍の特徴であり、電子書籍には絶対にマネできないものでもあります。

先の記事の中で語られていた「時間と経時性の把握」に関して電子書籍の方が紙ベースより圧倒的に劣ってしまったのは紛れもなくこの特徴よるものだと断言できます。物語の起点や特徴となる部分が全体のどの辺りに書かれていたのかを、頭ではなく指が覚えているのです。

さらにこの特徴は、そのまま「読み応え」に直結すると言い換えられます。物語が面白すぎて一気に2/3まで読み進めてもしまった!という感覚や、分厚い書籍を長い時間かけて読み、手垢でページの脇が薄汚れてくるのを日々感じるのと、いつもずっと一定の重さ、一定の厚さのままどのくらいまで読み進めたのかもわからないで読んでいるのとでは、その本の内容に対する思い入れも違ってくるのは明らかです。

読んでいる最中にヒトに入ってくる入力情報が減るということは、それだけ記憶の定着率の低下にも繋がるわけで、恐らくですが読み応えだけではなく読んだ内容の長期記憶にも影響を及ぼしていると思われます。これは愛読家にとっては由々しき問題です。

 

電子書籍に向いているもの向いていないもの、そして日本のカルチャーの未来

私は本好きですが、Kindleも持っています。ただし使い分けは明確にしています。もちろん今は価格が圧倒的に紙の方が安いので(Kindleコンテンツには中古という選択肢がないから)、明確に紙ベースの方が多いですが、それでもあえてKindleコンテンツを選択するジャンルは、

  • 雑誌 
  • 漫画 
  • リファレンス本 
  • 辞書 
  • 「後で読む」処理したWeb記事

この5つです。

いずれも一度読んだら読み返さないか、もしくは読んでいる位置にあまり意味を持たないものです。その本のどのあたりに何が書いてあったかを把握する必要があるものは絶対に紙ベースにしています。もしキラーな内容の本に出会った時に、その本の内容の記憶が薄まってしまう電子書籍は選びたくないし、そもそも電子書籍は(合法的な手段においては)人に貸すこともできないからです。

 

今後、電子書籍に先の3つの要素「位置」「速度」「読了予測」を感覚的にかつ無意識に読書が把握できる機能が付加されない限り、出版される書籍の中でも電子化が進んでいくジャンルとそうでないものは明確に分かれて行くでしょう。過去手帳がそうであったように、デジタルかアナログかの生存領域を決めるのはコンテンツ自身の向き不向きであって、ムーブメントにのってデジタル化が急伸する時期があったとしても、いつか必然的に淘汰が行われてくるはずです。私が電子書籍に向いていると書いた漫画は日本を代表するカルチャーでもあり、ここがデジタル化していくことでどんな影響をもたらすのかとても気になるところですね。