「終わりましたよ。お疲れ様でした。」
手術室の誰かに声をかけられて、手術が終わったことに気がつく。
いつのまにか左目には鉄製と思われる固くて特殊な形の眼帯がかけられていた。
ベッドに乗せられたまま移動して病室に戻る。
右目で窓の外に目をやると、茜色だった空がいつのまにか真っ黒になっていた。
手術は2時間ほどだった。
術後、比較的意識ははっきりしていたらしいのだが、安静剤がカンペキにキマった私には、ほとんど記憶がない。
ずっとうすら笑いを浮かべていて、うまく車椅子に乗ることができずに何度も乗り直したり、メガネを斜めにかけたまま平然としていたりなど、言動もだいぶおかしかったそうだ。
「手術の間は、どんな感じだったの?」
妻が聞いた。
私は、焦点の合わない右目で、誰も居ないあさっての方向を見ながら、ニヤニヤしてこう言った。
「ん〜・・・なんか、光がね、光がこう、キラキラしてた。
お花畑に棒をつっこんで、グルグルかき混ぜる感じ?」
どうやら私は天国への階段を登りかけていたようだ。
(続く)