今年、私は50歳を迎えました。
10年ほど前に通信会社に入社し、これまでパブリッククラウドの社内活用推進を行ったり、幸運にも子会社の立ち上げにも携わることができました。充実したキャリアを築いてきた一方で、近年は働き過ぎや中年の危機に直面し、精神を病んでしまうことも経験しました。ずっともやもやした職業人生を送りながら、「これでいいのだろうか」と思いつつも、仕事に追われる日々を変える勇気が持てないまま過ごす日々が続きました。
転機に訪れた千載一遇のチャンス
そんな私に訪れたのが、会社から付与された24日間のリフレッシュ休暇でした。勤続10年または50歳の節目にたった一度だけ与えられる特別な休暇です。今回ほど大企業に所属していることを感謝したことはありません。
「こんな機会、長い社会人人生でもうきっと二度と来ない!」
そう考えた私は、最初は思いつくままにやりたいことを並べ、ITとは違う分野の資格取得や、遠方への長期旅行などを計画していました。 ですが、実際にはまったく違う形でこの休暇を過ごすことになりました。
「暇を味わう」という選択
長期休暇にはいるまさに前日、私は予定をツメツメに詰め込んだ自分のスケジュールを見て、ふと疑問を感じました。
「これでは、いつもと変わらないじゃないか」
忙しさから解放されるはずの休暇に、また忙しさを持ち込もうとしていたことに気づいたのです。
そこで、私は意を決してすべての計画をキャンセルし、「暇を味わう」ことにフォーカスすることにしました。
「暇を味わう」
それは、「やりたいことリスト」の中に入れたままずっと後回しにしてきた「興味深いけれど緊急でも重要でもないこと」に手を付け、余った時間には何も予定を入れない、というものです。これらのタスクを休み中の小さな実行リストに入れ、今日も明日も明後日もやらなければならない仕事がない、ゆったりとした日々を送り始めました。
例えば、友人と会って話をしたり、ソロキャンプをしたり、家の屋根裏部屋を片付けたり。空いた時間は自分の好きなことに費やし、家族と遊ぶ時間や誰かの手伝いをしたりと気ままに過ごす中で、仕事に追われていた日々では見えなかった小さな幸せに気づくことが増えていきました。
ここではSNSに投稿したそれらの活動の一部を紹介します。
↓運動会の代休で平日が休みになった娘とぐらんぱる公園に出かけた
↓ひさびさのクルマ弄りにウキウキ♪
↓フルリモートが終わったので屋根裏部屋を解体して屋根裏倉庫に戻した
↓髪の毛をピンク色に!これもまず出来ないよね
↓休みと聞いて三島まで来てくれた友達と会ってお話できた
↓引っ越した当初に作ったウォークインクローゼットを大改修
↓スノーボードにホットワックスをかける
↓1人で三島のカフェに出かけたりもしました
人生観を変えたキャンプの夜
その中でも特に印象深かったのが、友人と2人だけで行ったキャンプでした。平日ということもあり我々以外は周囲に誰も居らず、ほぼ貸し切り状態で、昼前から翌朝までを完全に自然の中で過ごしました。
日中の太陽、夕暮れの涼しさ、深々と冷える夜の空気、そして朝焼け。時間の移ろいを体で感じるこの体験は、もう何十年も味わっていなかったことを思い出させてくれました。
地球にとって毎日繰り返されているはずの日常は、私にとってはビルの外側で起こっている別次元の話になっていたのです。
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「こんな当たり前のことが、今の私には意識しなければ体験すらできないのか」
この気づきは衝撃的でした。仕事に埋没していた私は、平日のすべてを仕事に捧げることで、こんなあたりまえの日常を遠ざけていたのです。
娘たちと過ごすかけがえのない日々
もう1つ印象深かったのが、娘たちを送り迎えする日々です。直前までフルリモートワークで自宅で働いていたのですが、結局仕事がびっちり入っている関係から見送ることも迎えることも一切できない生活でした。
この休みの間に、長女の出発を見送り、雨の日には駅までクルマで送ったり、次女は学校まで一緒に歩いて行き、夜には塾までクルマで送迎するという日々を経験しました。特に次女とはこんなに長い時間一緒に過ごしたことがなかったので、明らかに仲良くなれたのを感じました。
↓2人の娘といっしょに共同作業で作った飛行機の模型
私は勘違いしていました。
子どもを送り迎えすることは、やろうと思えばできる環境にあったのに、仕事を理由にやってこなかったのです。 一緒に住んでいるのに家族として生活していない。まるで単なる共同生活のような日々は、とても幸せと呼べるものではなかったでしょう。 そして妻に負担をかけつづていたことも、実体験として得ることになりました。
休暇後に起こった変化
休暇を通じて得た最大の教訓は、「暇を作ること」の重要性です。暇があることで、私は周囲の人に優しくなれる自分を取り戻せたと感じています。元来HSP(Highly Sensitive Person)という性質もあり、他人や環境の微細な変化に気づくことが多いのですが、忙しさの中では見つけた小さな変化や問題に、手を差し伸べてあげられる余裕がありませんでした。
また、働き方そのものへの考え方も大きく変わりました。「少し無理をしてでも仕事をすることが当たり前」という思い込みから、「人生を豊かにするために働く」というスタンスへの転換です。
生きていくためにはもちろんお金も必要だし、仕事を通じて社会貢献をしていくことの意義の重要性ももちろん知っています。ですが、人が人として生きていくのに最も大切なのは時間であり、その時間を自分と家族のために使うことが、人生をいきいきとさせるために最も重要だということに、あらためて気づかされることになりました。
これはデンマーク発祥とされる「ヒュッゲ(Hygge)」の考え方そのものです。
私の中で、人生の優先順位が音をたてて入れ替わっていくのがわかりました。そして、いまこの瞬間が、今後のキャリアや生き方を冷静に見つめ直すべきタイミングだと考えるようになりました。
次なる挑戦へ
今回、このリフレッシュ休暇で得た気づきをもとに、ウィークデイの中に「仕事以外の時間」をどこまで埋め込めるか挑戦しようと考えています。
徹底的に、やらないこと、の条件を決めて、関わるタスクを削ぎ落とし、時間を作る。そしてやるべきこと、をどこまで短時間で成果を出せるかに拘る。成果も100点や90点を目指さず、79点くらいで留めるようにする。
ここまでは時間管理系メソッドで王道的に語られるやり方でしょう。
ですが、これによって生み出された時間を使って、新たに別のことを始めるということは 絶対にしません。
なぜなら、暇を持て余すことが、ゆとりある豊かな人生を送るのに重要だということを知ってしまったからです。本当にやりたいことは、このゆとりの中から見つけられると確信しました。
平日のすべてを仕事に捧げることが幸福に繋がらない以上、平日の稼働時間を8時間よりも減らす方法や、事実上で週5日の業務時間を1日減らすといったことが本当にが実現できないのか、検証をはじめます。会社員としてどこまで実現できるか分かりませんが、少しずつ前進していきたいと思います。もし会社員で実現できないのなら、別の働き方を模索することもこれには含まれます。
私にとってのリフレッシュ休暇は、それほどのインパクトをもたらしました。
さいごに
もし今、私と同世代(40代後半)の現役で仕事をされている会社員の方で、日々の忙しさに忙殺され、「本当にこのままでいいのか?」と迷っている方がいるなら、あらゆる手段を使ってぜひ長期休暇を取ってほしいと思います。 私は幸運にもリフレッシュ休暇という機会を頂けましたが、この長期休暇によって得られる効果や発見は何物にも代えがたいほど重要なものです。それこそ、多少ムリをしてでても2週間以上の休みを取るべきだ、というのが私からの提案です。
要職についているから出来ない?
私にしかできないことがあるから休めない?
乳幼児や未就学児である我が子の世話をするような、時間も人も替えが利かないものでもない限りは、覚悟と宣言さえしてしまえばやってやれないことはないと思います。
あなたが思っているほど、あなたの存在は重要でなく、実は職場にいなくても、仕事も会社も思ったより回ってくれます。これは2〜3日の休みでは経験できません。まったく仕事に来ないという超長期を置かなければ、周りが動こうとしないからです。この残酷な現実を知ることも、長期休暇を取ることで得られる重要な経験になります。
忙しさを手放し、「暇」を楽しむ人生を経験し、ぜひ私と「ヒュッゲ」の考え方について語り合いましょう。